谷神不死 是謂玄牝
玄牝之門 是謂天地根
緜緜若存 用之不勤。
物壯則老
謂之不道 不道早已。
大国者下流
天下之交 天下之牝
牝常以静勝牡 以静為下。
谷神は死せず、
是を玄牝(げんぴん)という。
玄牝の門、是を天地根という。
緜緜(めんめん)と存するごとし、
之を用いて、勤(いそ)しまず。
壯(さか)んなる物は、老に則る。
之いわば、道にあらず。
道にあらずば、已(や)むこと早し。
大国なる者は、流れの下(もと)なり。
天下の交り、天下の牝なり。
牝(ひん)は常に静を以って牡(ぼ)に勝り、
静を以って下(もと)を為す。
谷は神妙にして、尽きることがない。
枯れずに生み出す、これを玄牝(げんぴん)という。
玄牝の門は、これを天地生命の根源という。
連綿と続き存在するものである。
聖人たる君子候王は、
これを用いることが重要で、他にあれこれしない。
壮(さか)んなものは、必ず滅びる。
それは牡(オス)にして、君子候王たる立場=道(Tao)ではない。
道(Tao)にそぐわない君子候王は、早々に滅びていく。
大国の立場にある者は、流れの下(もと)である。
世のすべての交りであり、世の根っこたる牝(ひん)である。
牝(ひん)は常に静かであることによって、猛々しい牡(オス)に勝る。
静かであることによって、下(もと)を為す。
谷は、ただそこに静かにあるだけで、尽きることなく水を湧き出(いだ)す。
枯れることなく命の水を湧き出させることを、奥深き本当の女性の性稟(せいひん)という。
奥深き真実の女性の性質が出ずる場所は、万物の母なる「有」に似て、すべてを生み出す天地万物の生命の根源である。
その性質によって、次々と尽きることなく命は生み出され、永遠に存続していくのである。
聖人たるべき大国を治める君子候王は、この奥深い真なる女性の性質を用いるべきであり、ほかにあれこれと何事かを勤しんで、作為するべきではない。
粗暴な牡(オス)のように猛々しかったり、壮(さか)んに何事か為さば、盛と衰は同じ状態であるし、壮の次は老と定まっているので衰えざるをえない。
そのように何事かを壮(さか)んに作為することは、君子候王の道(Tao)とすべき道ではない。
道(Tao)にあらざる君子候王は、滅びていくのも早い。
一般庶民はともかく、大国を治める君子候王たるものは、流れを生み出す大元(おおもと)、またすべての流れが集まる最下流に居るべきだ。
この世のすべてを生み出すかのごとき交わりをなし、奥深き真実の女性の性稟(せいひん)のように、生命の根源たる玄牝(げんぴん)をなす。
玄牝(奥深き真実の女性の性質)は、常に神妙にして、無に居り、為す無きを為し、猛々しく壮(さか)んなる牡(オス)に勝っていく。
神妙にして心静かに世の流れの大元(おおもと)を為す。
One-Point ◆ ここでも、これまでの読み下しとは異なる箇所があります。老子は自ら「多言は窮す」と述べているように言葉を省略したり、どちらに取られてもいいようにダブルミーニングや掛け言葉を多く用いています。いずれにも偏らず、両方の意を汲み取ることが必要です。それが「美と醜」「善と不善」は同じだとする老子の思想です。
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