不尚賢 使民不争
不貴難得之貨 使民不為盗
不見可欲 使民心不乱
是以聖人之治
虚其心 実其腹 弱其志 強其骨
常使民無知無欲
使夫知者不敢為也
為無為 則無不治。
賢を尚(とうと)ばず、民を争わざらしむ。
貨を得る難を貴ばず、民に盗みを為さざらしむ。
欲すべきを見ず、民の心を乱れざらしむ。
是を以って聖人の治は、
その心を虚しく、その腹を実し、その志を弱め その骨を強くし、
常に、民を知 無く、欲 無くさせしむ。
それ 知者に敢為(かんい)ざらしむなり。
為す無きを為せば、治まらざる無く(無に)則(のっと)る。
賢い者を尊ばなければ、人々は争わない。
お金儲けの才を貴ばなければ、人々は盗みをしない。
好みや願望を示さなければ、人々は心を乱さない。
これをもって聖人たるべき君子候王の治世は、
人々の心を煩わせず、腹を空かせさせず、
野望や野心を弱めて、体を強くし、
常に、人々を賢(さか)しらにさせず、どん欲にもさせない。
それは訳知り顔の知者に、何事かを断行させないためである。
無をなせば、「無」に則(のっと)って治まらないことはない。
墨子らが言うような尚賢(優れた者を登用すること)をやめれば、臣下臣民は争わなくなる。
希少な財貨を得る能力や才能を貴ばなければ、臣下臣民は、盗みや不正を働かなくなる。
聖人たるべき君子候王は、価値判断を示さず、嗜好や欲するところを見せなければ、臣下臣民は関心を引こうと競ったりせず、心を乱さなくなる。
それゆえ聖人たるべき君子候王の治世は、
臣下臣民に余計な思いを抱かせず、お腹を空かせさせず、出世争いや褒賞を競わないよう野心を弱め、身体を健康にたくましく生活させ、
常に、臣下臣民を賢(さか)しらにさせず、またどん欲にもさせず、自ずから然(しか)りと故意なく暮らさせる。
知を競って何事かなそうと敢為(かんい)するかの知者に、治世を乱させないためである。
「無」の妙をなせば、「有」となる天地生成の道理に則(のっと)るゆえ、天下国家が治まらないということはない。
One-Point ◆ この第3章は、老子お得意のダブルミーニングがてんこ盛りです。君子候王自身に向けても、また臣下臣民に対する治世術としても、理解できるように記されています。特に最後の「則無不治」。一般的には、
「即ち、治まらざる無し」と読み下されますが、「則無」(無に則る)と「無不治」(治まらざる無し)と、無をかけており、名文です。また「不敢為也」の為も「敢為(かんい=断行すること)」と「為め也り」をかけており同様で、併せて「為無」(無を為す)を意識させる構文です。
※初回はここまでです。これ以降は、章立てにこだわらず、内容にそって随時アップしていく予定です。
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